#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化





少し前、とある女優の電撃結婚の報道に対して、名前も知らぬサラリーマンが言っていた。ああ、そうだ。思い出した。


記憶の中のサラリーマンの口の動きを、美聖の形の良い唇が真似ていく。





「……でも、推しが幸せになるのはファンが何よりも望むことだから、祝福しますよ」




あのサラリーマンは笑っていたな。優しい顔で。美聖は、言葉の後に、彼の表情さえも真似た。美聖は、役者だ。




祈りを込めた柔らかな美聖の笑みに、息吹の眉根が寄る。


大きな瞳が最後まで彼の真意を探るようにその表情を睨めつける。



息吹は美聖の表情ばかり気にして、紙袋を抱えていない方の指が、手のひらに食い込むほど力が込められていることに気がつかなかった。


そしてそれは、美聖自身も、無意識のうちだった。




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