#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「柊さん最近顔死んでません?」
翠の遠慮のない物言いに、美聖は「そんなことないよ」と死にそうな感情を押し殺して笑った。
「嘘だ。絶対なんかありましたよね。こないだから元気ないですよ」
「本当に元気だけどな。翠さんは人をよく見てるんだね」
「柊さんだから、ですよ」
「……、」
翠の真っ直ぐな言葉が、美聖にはとても眩しい。どうしてそんなに躊躇いなく直線で進めるのだろう。
美聖は、"俳優"である自分の存在が大きくなる度に、ただの柊 美聖という自分が心もとなくなっていくのを感じている。
《──アイドルがファンに用になることはもうこの先ないわ》
猫のように大きな瞳が、鮮やかな色のハイヒールが、ふとした時に美聖の胸を締め付ける。