#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
美聖は片平に言われた通り、スマホの写真フォルダに収まる写真を漁る。日にちは疎らだが、その中には確実に息吹との思い出が閉じ込められている。
「(やっぱり、夢じゃないんだ…)」
事務所のカフェで初めて息吹と食事をした時、帰り際に彼女が言った。
『美聖くんだけに私の隙間、全部あげることにした』
微笑む息吹を見つめ、美聖は食事中に自分が放った言葉を思い出す。
《──俺がまた息吹さんと来たいんだ。だからせめて誘うぐらいの隙間を俺にくれないかな》
息吹は、この美聖の問いに、OKを出してくれたのだ。そして、彼女は美聖のコートを羽織ったまま、宝石を詰め込んだような輝きのある瞳をゆったりと細めた。
赤いグロスの間に、白い歯が覗く。どの果実よりも甘美に映る。
『だから、美聖くんの時間も私にちょうだい』
そんな可愛いお願い、美聖には断る選択肢などなかった。