#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
息吹は膝を追って胸に抱え込むようにそこへ腕を回すと、足の爪先を立てて、そこを見下ろしたまま言う。
「ごめんね。私、前に、美聖くんを傷つけた。しかも初対面で、美聖くんは初めての撮影だったのに」
「え?」
突然の言葉に、美聖は固まる。息吹は構わずに続ける。彼女の目がゆっくりと美聖へ向けられる。
「ずっと謝りたかったの。あの日のこと」
罪悪感に包み込まれた息吹の顔は、眉が八の字に垂れて、力強さはない。幼い女の子のような表情に、美聖はただ静かに黙って、息吹の言葉を最後まで聞こうと耳を傾ける。
「出来上がったMV観て、最後の美聖くんのシーンを観て、私、感動のあまり、こっそり泣いた」
「え……」
少しだけ恥ずかしそうに息吹が小さく微笑む。頬を膝につけて、丸まる彼女は猫みたいだ。