#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「実は"あの日"っきりにしようと思ってたんだ。息吹さんの放つオーラとか力強い眼差しとか、撮影に向き合う姿勢があまりにも眩しくて、ぬるま湯に浸かってる俺には無理だなって」
美聖はぐるりと練習室を見回す。きっと、あの日と同じ部屋だ。
「で、スカウトを正式に断ろうと思って翌日事務所に来て、迷子になって、息吹さんがひとりで練習するここに来た」
「え……?」
驚きの声が隣から零れ落ちる。美聖は横目で息吹を見やる。彼女は目を見開いてびっくりしている。やっぱり気づいてなかったか、と美聖は喉の奥で笑う。
「それで、ここで泣いてる息吹さんを見た。」
「……やだ、忘れて」
困惑したように美聖の腕を掴む息吹の必死さに、美聖は思わず笑ってしまう。「恥ずかしいから忘れて」と繰り返す息吹に美聖はいたずらに首を横に振る。