#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化





「だめだよ。だって、あの日の息吹さんのおかげで今の俺がいるんだから」

「え?」



美聖はそうっと練習室の床を指で撫でる。ここに、息吹の涙が、輝かしい舞台で笑顔を浮かべる人たちの涙が、汗が吸い込まれている。



──完璧の裏側って、ぼろぼろで空っぽなんだよ

ああ、そんなこと言わないで。



「単純な言葉になっちゃうけど、凄くかっこよかった。痺れた。この人に追いつきたい。隣に並びたいって思った」



──だから、私の完璧って壊れかけだし一生懸命光るものを集めてるだけなの

お願いだから、そんなこと、思わないで。



「息吹さんは、息吹さんでいるだけで完璧だと、俺は思うよ。いや、俺だけじゃないな。きっとみんな思ってる」



美聖は顔を上げて息吹を再び見る。彼女は決して泣かない。美聖がどれだけ息吹の追っかけをしていても、彼女の涙は"あの時"だけだ。


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