#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
《──息吹の部屋が空っぽで、寂しくなる》
《──もともと空っぽなのに、年内解散を発表してから、息吹は誰よりも先に荷造りまで始めてる》
以前、瑞希が言っていたことを思い出す。
ちゃんとその兆しは表れているのに、今目の前にcoc9tailの黛 息吹は居て、メディアにも頻繁に出ていて、今までと何も変わらずに輝く彼女を見ていると、解散という言葉が溶けてしまう。
息吹は疲れたように溜息をつくと、スマホの画面から視線を逸らす。ほんの少し、その綺麗な瞳に呆れが孕んでいる。
「でも全然わかんなくて。こういう時、私って本当に世間知らずなんだなあって身に染みちゃう」
「……俺だってそうだよ。今のマンションだって片平さんが教えてくれただけで。木村さんは何か言ってる?」
「うん。部屋なら事務所で探すって。でも、来年から私はただの一般人になるんだもの。頼れないよ」
「だったら、」
───だったら俺を頼ってよ。
美聖は思わずそう言ってしまいそうになった。言葉を途中で切った美聖の気まずそうな顔に、息吹が不思議そうに首を傾げる。