#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化




《──息吹の部屋が空っぽで、寂しくなる》

《──もともと空っぽなのに、年内解散を発表してから、息吹は誰よりも先に荷造りまで始めてる》




以前、瑞希が言っていたことを思い出す。


ちゃんとその兆しは表れているのに、今目の前にcoc9tailの黛 息吹は居て、メディアにも頻繁に出ていて、今までと何も変わらずに輝く彼女を見ていると、解散という言葉が溶けてしまう。


息吹は疲れたように溜息をつくと、スマホの画面から視線を逸らす。ほんの少し、その綺麗な瞳に呆れが孕んでいる。



「でも全然わかんなくて。こういう時、私って本当に世間知らずなんだなあって身に染みちゃう」

「……俺だってそうだよ。今のマンションだって片平さんが教えてくれただけで。木村さんは何か言ってる?」

「うん。部屋なら事務所で探すって。でも、来年から私はただの一般人になるんだもの。頼れないよ」

「だったら、」




───だったら俺を頼ってよ。


美聖は思わずそう言ってしまいそうになった。言葉を途中で切った美聖の気まずそうな顔に、息吹が不思議そうに首を傾げる。


< 232 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop