#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
隣の息吹はツバの広い黒い帽子を目深に被っている。その隙間から大きな黒真珠の瞳が隣の美聖を見上げる。
変装用のマスクを付けていた美聖は、息吹の意図を掴めず素直に首を傾げてしまう。そして、慌てて答える。
「結婚ですか!?」
「そのもっと前の話!美聖くんの家に住まわせてって話」
そうだ。すっかり結婚の話で流れていた話題を美聖は思い出し、考えあぐねる。
ひとつの問題を解けても、まだ次から次へと問題は連なっているのだ。
そんな美聖を一瞥してから、息吹は扉へと顔を向けたまま言う。
「美聖くんは寂しいと思わないの?」
美聖が息吹の声に引っ張られて彼女を見るが、本人は真っ直ぐと前を向くだけで視線が交わることは無い。
息吹は美聖の方を向くことなく続ける。