#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「会うのはいっつも事務所の中だけ。帰りも絶対別々。会えるのだって疎ら。美聖くんは寂しくならないの?」
「え?」
「私はこの帰りの時間がいつも寂しい。次会えるまでの時間は、もっともっと寂しい」
帽子の隙間から息吹の長い睫毛が瞬きの度に揺れる。
淡々と零される言葉に、寂しさなんて感情はない。それなのに、息吹の言葉に嘘はない。
息吹がようやく美聖を見上げる。
「美聖くんは?」
彼女の頬はもう白へと戻っている。血色の良い赤は肌の下に埋もれこんで、人形のように美しい顔が美聖を見つめるだけ。