#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「俺は……、」
美聖の言い淀む声を遮るように、タクシーのライトがガラス張りの扉を突き抜けてエントランスの中を流れるように灯す。
静かな空間にエンジン音が鳴り、美聖のスマホが震える。
確認しなくてもそれがタクシーの到着を知らせるものだということは、美聖も息吹もわかっていた。
「……じゃあまた連絡するね」
息吹はいつも通りの調子で言う。それでも顔を上げた美聖と視線を交わすことなく、ひとりで出口へ向かって歩き出す。
「あのさっ」
その華奢な背中を見つめ、美聖は握りしめていた拳の力を、ふ、と抜いた。