#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「美聖さんやっぱり僕が言っときますんで。ホテルか、最悪、ロケバスの中で休みましょうよ」
片平は改めて美聖に告げる。本シーンが山場の理々杏と違い、美聖の撮影量はかなりきつく組み込まれている。今後のことを考えても今休ませなければと片平は思う。
美聖はそんな片平の意図を汲み取り「わかった」と目尻を垂らして笑うと、スマホの画面を片平に向ける。
「息吹さん摂取する」
「……ブレないですね」
「骨の髄までね」
そう言って笑ってから美聖は「その前に」とスマホをしまい、立ち上がる。その視線の先には、理々杏だ。
監督とカメラマンと話している隙に、美聖は理々杏の元に向かう。彼女はひとり、台本を手に不安げに顔を歪ませている。
「大丈夫だよ」
美聖の柔らかな声に、理々杏が反射的に顔を上げる。美聖の優しい表情を見て、彼女の目が大きな湖をつくる。