#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「まずはファン側の成長を見せる。窓枠越しに腕を引く息吹を、美聖は掴んで。そのシーン撮ってから、再会のシーン入ります」
「はい」
「わかりました」
監督の話を聞きつつ、ふたりで軽く動きを合わせていく。カメラはまだ回っていないが、既に美聖も息吹もプロの顔つきになっている。
幻のMVでは制服姿だった息吹は、待ちの間に衣装チェンジで薄紫色の衣装を身に纏っている。美聖はグレーのスーツにさりげなくメンバーカラーが全て入ったネクタイをしている。
「カメラもう少し横から」
「はい」
監督の指示が飛び、撮影が始まる。
窓越しでしか手を伸ばせなかった美聖が、すり抜けゆく息吹の手を掴む。振り返る息吹の先に、カーテンが風ではためき、美聖の真剣な顔が現る。
「(……あ、これか)」
息吹の視線が美聖の美しい瞳に吸い込まれる。演技などしなくても、美聖の力に引き寄せられて自然とするべき感情が表情に現れる。