#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
と、息吹はソファーに横になって必死に眠りと戦っていた。
「痛かったからすぐに言って」
「うん。ありがとう」
美聖はソファーの前に跪き、シート越しに息吹の顔に触れる。極めて丁寧に、息吹の綺麗な顔にシートを滑らせてメイクを落としていく。
自分の手で息吹が素の彼女に戻っていく。美聖の胸になんとも言えない高揚感が生まれる。
アイシャドウを落としたところで、息吹がゆったりと瞼を持ち上げる。
そして、必死にメイクを落とす美聖を一瞥してから、彼の後ろにあるテレビ画面を眺める。そこに映るのは激しいダンスをしながら歌うcoc9tailだ。
「がっかりした?」
息吹が画面を見つめたまま呟く。息吹の頬にシートを滑らせていた美聖が「え?」とキョトンとした声を上げ、息吹の目を見る。
「いつもキラキラしてて綺麗に飾られた私の、こういう、情けないところを見て、美聖くん、がっかりした?」
画面の向こうで笑顔を振りまく息吹がいる。ファンの為にアイドルとして完璧に整えられたメイクに衣装にダンスに歌。それらは全て周りに与えられたものだ。