#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
今の素の息吹には何もない。
美聖は息吹のメイクを落とすのを再開しながら言う。
「実は最高に嬉しい」
「え?」
予想の斜め上をすっぱ抜く美聖の応えに、息吹は画面から美聖へと視線を移す。健気に息吹の化粧を落とす美聖は、柔らかな表情のまま続ける。
「こんな息吹さんを知ってるのが俺だけっていう特別感に浸ってる。ファンの皆様には土下座しなきゃと思うけど、だからといって今の息吹さんを誰かに見せるのは悔しい」
「……だって今の私、綺麗でもかっこよくもないよ」
「だからいいんだよ」
美聖の言ってる意味がわからず、息吹は固まる。そんな息吹を見て、美聖はへらりと笑う。犬が飼い主に甘えるようなそんな笑みに、息吹の頬が思わず緩みそうになる。
ある意味、こんな美聖の顔を知っているのも息吹だけなのかもしれない。
美聖はシートを取り替えて、息吹の額の化粧を落としながら目をキラキラさせて言う。