#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「めちゃくちゃオタクになるんだけどね、俺はもう息吹さんが『何してても可愛い』っていう境地なんだ」
「境地…?」
「そう。誰かのことを『かっこいいな』とか『綺麗だな』なだけだったらまだ引き返せるけど、その人の何気ない瞬間を『ああ可愛いなあ』って思った時点でもう沼。落ちるところまで落ちてるんだよね。」
「そ、そうなんだ」
「しかも息吹さんって普段から常に完璧だから、そういうギャップに触れられるのってcoc9tailの限定版インタビューとかドキュメンタリーじゃないと拝めない。つまり、今、目の前で見てる息吹さんは初回限定盤且つトレーディングカードサイン入りレアカード兼握手会息吹限定応募券が一気にくるぐらい凄い嬉しい」
「(もう後半よくわかんなかった)」
「息吹さんは自分の希少価値に気づいてないんだよ。息吹さんが息吹さんでいるだけで、俺もファンのみんなも、嬉しい」
「……」
美聖の饒舌な話に、息吹は暫く黙り込む。画面から他のメンバーたちの笑い声が聞こえる。その端で自分は静かに微笑んでいるだけ。
完璧でいなければと思っていた。アイドルとして、黛 息吹として、自分が持てる全てで美しくあろうとし続けた。
それを極めるうちに、自分にないものがコンプレックスになっていった。ソファーで横になったまま、顔の下敷きになった、アイドルになってからずっとロングのままの黒髪に手を伸ばしながら言う。