#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「苑田 櫻子役の黛 息吹さん入りまーす」
息吹は現場に入ると深々と頭を下げる。それから出演者とスタッフひとりひとりに挨拶をしてゆく。
「初めまして、coc9tailの黛 息吹です。ご挨拶遅れて申し訳ございません。本日からよろしくお願い致します。」
美聖は隣に翠がいることも頭から抜け落ち、息吹を見つめる。
息吹の姿を生で見るのは1週間ぶりだったのだ。彼女の化粧を落とした2日後、息吹は再び地方へとライブへ行ってしまった。
おそらくその足でこの現場に来たのだろう。
息吹を見つめる美聖を、翠は見つめる。翠の脳内で、息吹の元に走っていく美聖の後ろ姿が思い出される。
翠が見る美聖はいつも、美聖の後ろ姿や横顔ばかりだ。
「……柊さん」
「 ん?」