#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
美聖の視線がゆっくりと、息吹へと余韻を残したまま翠へ向けられる。だから、翠は笑ってみせるのだ。笑顔は何よりの防波堤だと、翠は知っている。
「今日は主演《あたし》と恋人役ですよ」
翠の言葉に、美聖は、綺麗な瞳を丸くさせて、そうして、余裕に満ちた笑顔で頷く。
その余裕が、翠は気に入らないのだ。先程まで息吹を見ていた彼はもう微塵もいない。
「わかってるよ。頑張ろうね」
「(何も、わかってない)」
息吹がふたりのもとへ挨拶しにきたことで、翠は美聖から顔を逸らし、人形のように可愛い息吹を見つめて笑顔を作った。