#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
美聖のあまりにも優しい触れ方に息吹の身体が硬直しかける。そして、彼の海のように穏やかな瞳に、息吹は耐えかねて口を開いた。
「……ごめんなさい。私が勝手に拗ねてるだけ」
息吹の桃色の唇が動く。伏せがちな瞳は曇ったまま。長い睫毛だけが、切なげに震える。
美聖は息吹の耳たぶに優しく触れたあと、流れるように彼女の頬へ指を滑らせる。
「俺に、理由を教えてはくれない?」
「……仕方ないことだもの」
「仕方ない?」
「うん」
そう言って息吹が美聖と目を合わせる。翳った息吹の瞳はほんのりと紺色にも見える時がある。
わずかに躊躇いを見せたが、息吹の瞳が不意に美聖の奥のテレビへ向いて、そして、ぐ、と眉間の皺を深めて言った。