#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「だって、美聖くんが誰かとキスするのも、誰かを抱きしめるのも、誰かに好きだって言うのも、俳優なら仕方ないことだもん」
「……」
美聖の記憶が昼間の撮影まで遡る。本来、頬にキスをする予定だった翠と唇を合わせたこと。翠の演技力が買われて放送にそのまま使われること。
その前にも、今まで演技で多くの女優と美聖はキスをした。少ないがベッドシーンも演じたことがある。
それでも、息吹が何か言ってくることはなかった。美聖の出演するものを観てくれた時も、彼女は「私にもかっこいい台詞言って」なんて悪戯に笑ってくるほどだった。
今になって、何故。
困惑する美聖に、息吹はクッションをきつく抱きしめたまま続ける。美聖が帰ってくるまで、帰ってきてこうして向き合うまで溜め込んでいたものが、ぶわりぶわりと溢れ出す。