#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
息吹は美聖の涙を優しく拭って、それから、ふと、その視線を記憶の中へと向ける。
ぼんやりとした眼差しで、笑顔を称えたまま、息吹が呟く。
「…………終わっちゃった、」
「、」
「一個ずつ、ひとつずつ、私が消えてく」
息吹の瞳が過去を辿るように、色を失う。いつも宝石が詰め込まれた瞳は、今はただひたすらに淋しげに、ぼんやりとただそこに在るだけ。
だらり、と息吹の手が美聖の頬から離れて、落ちる。
「自分で選んで決めたはずなのに、今まで立ってた居場所がなくなるのって、こんなに、……つらいんだね。 」
そう言う息吹の口元には柔らかな微笑が携えられたまま。固く、石像のように、その表情であることが正しいと縛られたように。
「でも、ファンは選ぶ余地なくcoc9tailを失うわけだし、私の勝手な我儘で、私を応援してくれる人達の前から消えるわけだし、」
美聖は息吹の言葉を遮るように、涙を零しながら言った。