#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化






それでも木村は、仕事として息吹から美聖を引き離した。きっとそれが正しい。



顔を上げて片平を見る美聖の顔は、相変わらず整っている。背も高くてスタイルもよく綺麗な顔をしていて、俳優としての才能もある。それなのに、この人はなんでこんな放っておけないのだろう。




「"事務所に報告できるような関係でない"のに、先に記事を抜かれるというのは、腑抜けているとしか思えない」




代表の言葉を繰り返す。美聖の顔がわかりやすく歪む。子供のような彼に片平は思わず笑いそうになるのを堪えて、続けた。



「単純に貴方たちは順番を間違えただけです。」



美聖と息吹にも考えがあるのはわかる。傍から見てもふたりの想いなどすぐわかるほどだ。代表にだってきっと気づかれている。


そもそも事務所内であれだけふたりでいるところが多くのスタッフに目撃されているのだから、ぶっちゃけた話、美聖と息吹のスキャンダルに動じる事務所内の人間などいない。


ただ、先に記事にされてしまったことが今回の問題なのだ。事務所である親の前に、赤の他人にふたりの秘密を暴かれるのはまずい。



片平は、美聖の背中をとんとんと叩く。



「息吹さんと"約束"してることがあるんだったら、その約束が果たせるまでは泥水飲んでも耐えましょう」




片平が立ち上がって「帰りましょう」と言うと、美聖は泣きそうな顔を堪えながら笑った。




「ありがとう、片平さん」




< 399 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop