#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
美聖は撮影の衣装の上にダウンコートを着ていて、それで涙を拭おうとしたので、片平は咄嗟にティッシュを差し出す。
「赤くなっちゃうじゃないですか。撮影に影響します」
「ありがとう」
ティッシュで丁寧に涙を拭った美聖は、ぐす、と鼻を啜る。少し離れたところでは、座長の美聖が「寒いので少しでも」と差し入れに用意したコーヒーショップに群がるスタッフの談笑が聞こえる。
スタッフや共演者には気を使うくせに、自分は自販機横でひとり泣いている。いったいどんな人気俳優だ、顔を見てみたい。と片平は内心で突っ込みながら目の前の美聖を睨む。
「厳しいこと言わせてもらいますけど、休憩明けに泣くシーンあるんだから今枯らさないでくださいよ。あと相手役の翠さんがずっと美聖さんのこと探してますよ。息吹さんロスなのはわかりますが、ちゃんと仲良くしてください。」
「ごめん」
素直に謝ってくる美聖に、片平は胸を痛める。涙の痕を残した顔というのもずるい。