#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
その出来事に何の反応も示さない美聖に、翠は少しつまらなさそうな顔をする。わかりやすい子だな、と片平は無言でその光景を見つめる。
「泣く練習なんてしたら本番で涙枯れちゃってません?」
けらけらと笑う翠に、椅子の肘掛に頬杖をついて、美聖が弱ったように笑う。その綺麗な男の弱々しい姿に、女性の母性はいとも容易くやられてしまうというのに。
「"ある事"を思い出すだけで、泣く気がなくても涙が止まらないよ」
片平にはすぐ察しがつく。coc9tailの解散だ。
息吹と握手会を終えてから確かに泣く回数は減ったが、それでも時々抑えきれないのか、美聖はひとり隠れて泣くようになった。
翠はつけまつ毛の下、カラコンの入った茶色の瞳で隣の美聖を見つめる。