#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「……(片平さんにめちゃくちゃ心配されてたな…)」
美聖は、部屋を出て事務所の廊下を歩く。
廊下のいたるところにはドラマや映画、全国ツアーライブのポスターが貼り巡らされている。
今回、会議室に使用した部屋からは、美聖が所属している俳優部門よりも『coc9tail』や『SH/KI』が所属するアイドル部門の方が近い。
「こないだの打ち上げに杏慈来なかったってみんな泣いてたよ」
「知るかよ。家に帰る方が大事だろ」
「まったくお前はさあ」
声だけが聞こえてきて、思わず歩みが遅くなる。向こうの廊下の角から、すらりとした長身の男ふたりが現れる。
アッシュブラウンの髪の男は、舌打ちをしながら「妃夏《きっか》が電話に出ねえ」とスマホを耳に当てている。
その美しい男の肩に腕を回すのは、優しい顔立ちに泣きぼくろが三つ連なっている。
「(SH/KIの遊佐さんと黛さんだ…)」
美聖は事務所の先輩かつ男の憧れでもあるふたりに緊張しながら会釈する。