#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
華やかな表会場とは違い、機材や板が並ぶ舞台裏は常に忙しなく動き回っている。
階段を下り、地下通路まで行くとそこに控え室が並んでいる。
片平から送られてきた木村の番号に電話をかけようと美聖がスマホに視線を落とした時。
「あ、きたきた」
柔らかな声に釣られて、美聖は視線を持ち上げる。
声のした方へ黒目を向ければ、そこにはしっかりと美聖の姿を捉え、手を振っている人物がいた。
「(あ、)」
──美聖の、本当の本当に心の奥底にまで沈め込んだ淡い期待は、そこで音もなく散りゆく。
美聖のそばにやってきた人物は、顔には出さなかった彼の表情の、その奥を見透かしたように、口元を緩めた。