#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「普段、息吹のライブを観に行くことなんてしないんだけどね、ほら、あいつ、解散するらしいから」
周音は廊下の壁に寄りかかる。
地下の控え室が並ぶそこは静まり返っている分、彼のどこか他人事のような声は、しっとりと美聖の耳に張り付いていく。
階段の上から微かに舞台の片付けに勤しむ声や音が盛んに響いてくるが、美聖にとってはどこか離れた世界の音に聞こえた。
「息吹って、おれにも本音を見せないんだ」
唇の片方だけを持ち上げて、ゆるりと笑ってみせた周音の中に特に悲しみの感情は見受けられない。読ませていないだけかもしれないが。
周音は、小さく息を吐き出すと、垂れ目がちの瞳をゆったりと瞼で覆い、再び持ち上げる。
美しい姿がスローモーションのように、美聖の視界に揺れ動く。