#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
「もしかして、の可能性も潰せずにいるから、今日"直接"確かめにきたんだ」
周音の中には、複数の人格の型が存在している。
ひとつの身体に、自由自在に、その時必要な中身を出し入れできる。
周音が右足の裏で壁を軽く蹴る。
その反動で彼の身体が壁から離れる。
革靴の先が、美聖へ向く。
美聖は、たったそれだけ貫かれた気分になる。
「もしかして、"噂"って、息吹で、その相手って、」
周音が美聖との距離を詰める。
真正面から瞳を射抜かれて、美聖は、必死に見つめ返す。逸らしてはならないと、本能が告げていた。
彼の白い指が、白い蚕の糸のように、するり、と、美聖の細く長い首に這う。
指が肌に吸い付き、首に浮き出た血管から潰すように、その指が微かに力を込める。