#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
美聖は話の根本がズレている。
息吹は訝しげな顔で彼を見上げていたが、その端整な顔は至って真剣なので、先に諦めたのは息吹だった。
「まあいいです。今日はお礼を言いたかっただけなので」
「いや、あの、息吹さんの存在に感謝してるのは俺の方です」
「待って、ちょっと1回待ってください。話をややこしくしないでください」
「はい」
真っ黒な髪を巻いている息吹は、先日タクシーまで運んだ時のラフな格好とは違い、丈の短いブランドのワンピースを身につけ、耳には、大きな宝石のついたピアスをつけている。
先日と同じ高さのヒールは、線の細いデザインになっていて、一際目立つ。
服に負けてしまいそうな格好も、息吹が着れば、彼女のために拵えられた物へと落ち着いてしまう。
あまりにも綺麗な息吹を眺め、美聖は感嘆の息を吐き出すと共に心の声が漏れる。
「……ほんとに可愛い。」
「ありがとう。っじゃなくて、ちょっと、もう!本当に口をチャックしてください」
「はい。」
可愛い、といわれた条件反射のようにアイドルの笑みで返す息吹は、お礼を言ったあとに我に返り、その、小さな顔がむくれる。