#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
そんな顔さえも可愛い。美聖は、このまま時を止めてしまいたくなる。
彼女はそんな美聖の心の内など知る由もなく、手にしていた紙袋を彼へと差し出す。
首を傾げた美聖を見上げ、息吹が言う。
「この間タクシーまで抱えて運んでくれたお礼です。コートはちゃんとクリーニング出しましたから」
「いや、どうせならクリーニングしないで欲しかったかもしれないです」
「美聖さんってどうして会話をねじ曲げてくるんですか!?」
「えっ」
「3回目ですよ!」と困惑する息吹に、美聖も困惑する。
彼女のこんな、完璧から少しはみ出して、目を回しかけている表情など、滅多にお目にかかれない。
息吹は宙ぶらりんになっている紙袋を、美聖の胸へと押し付ける。
美聖は反射的にそれを受け取る形になる。息吹は紙袋を押し付けたまま、独り言のように呟く。
「助けてくれてありがとうございましたって言うだけなのに、なんでこんな驚かなきゃならないんですか」
もう、と付け足す息吹は口調とは裏腹に怒っている様子はない。それどころか、ほんの少しだけ笑いを堪えているようにも見える。