好きとか愛とか
普段からこうして壱矢に絡んでいることが分かりすぎる距離感。
なんだろう、彼女のふりなんてものをしてるからか、それがやたらに気に入らない。
壱矢が嫌がるとか嫌がってないとかそんなのどうでもいい。

 「先輩が嫌がってなくても私が嫌なんです。その人は私の彼氏です、ベタベタ触らないでください。すごく不愉快です」

ふりとはいえ壱矢は私の彼氏だ。
私に彼女役を頼んだのなら、自分だってちゃんとやって欲しい。
女避けとか言ってたのに、寄ってきた女は放置とかどういう案件だ。
私はちゃんと役目を果たそうとしているのにまったく。
そういう苛立ちもこめて壱矢を睨んでやった。
睨まれた壱矢は、睨まれたくせににこにこしている。

 「だとさ。俺も可愛い彼女と同意見だから、今後は止めてくれる?」

ここに来て、ようやく絡まった腕をほどいた壱矢が、私の肩を抱いて引き寄せた。
女子達は不満全開で唇を尖らせている。
そしてあからさまな敵意が私に向けられていた。

 「先輩も、ああいうのさせないでください」

そうしたら私の彼女のふりという役どころの仕事も減るのに。
「わかった」と返した壱矢はやっぱり笑っていて、なんだったら満足といったふうな表情である。

 「かわいくてかっこいいだろ?俺の彼女」

私の手に自分の手を重ねた壱矢が、女子生徒にヒラヒラ手を振って踵を返した。
そのまま手を繋いで校門を出て、通学路を並んで歩く。

 「お前があんなことするなんてな」

しばらく歩いたところで、壱矢がため息混じりに呟いた。
ビックリしている表情だ。
そんなこと、私の方が驚いている。

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