好きとか愛とか
私も答えとしてはちょっと意味が違うと思って、慌てて「違うんです」と弁明を挟んだ。

 「いいえというか、なんというか、今の私の質問は相手ありきのものなので、答えてもらうとしたらその方のプライベートも掘り下げることになるというか…、それはちょっと話が違うかなと。だからいいえという答えになってしまって。なのでさっきの自分の答えもまずかったんですが気が回らなかったというか…」

告白の返事を訊くということは相手のことも含めてということになる。
迂闊だった。
さっき自分も訊ねられたとき気付くべきだった。
私が告白を断わった話をすれば、告白してきた人が振られた事実を全く知らない人に知られてしまう。
名前までは分からないとはいえ、それはプライバシーの侵害なんじゃないだろうか。
自分だってそういう話を自分のいないところでされるのは嫌だと、壱矢にも言っていたはずなのに。

 「真面目か」

私の肩に額を乗せて、くつくつ声を出した壱矢が笑っている。

 「真面目は私の自信です」

バカにされるのは冗談ではないので、そこはきっちり断言しようと壱矢に体ごとふりかえる。
と、思った以上に近い場所に壱矢がいて、咄嗟に後ずさってしまった。
しかしそれを壱矢が強引に阻止して、同じ場所にとどめさせる。
垂れ下がる私の髪を耳にかけ、その指で頬を優しくつねられた。

 「そうだな。壱のいいところだよな、そこ」

いいこいいこるみたいに、指先が私の頬を撫でる。

────なんでそんなに距離が近いんですか?─────

は、心の中でしか問いかけられなかった。
私はただ頷くしか出来なくて、その後はまた顔を上げるのも難しかった。
壱矢の両腕が腰に回されて、さっきよりも密着度が若干増す。
その距離にたじろいだ私などお構いなしに、壱矢が額をぶつけてきた。

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