好きとか愛とか
ごちっと軽快な音がして、頭突きを食らわされたのだと理解した。
痛くはないものの、壱矢の額の固さは分かった。

 「なんなんですか」

 「お前鈍感」

ムッとした壱矢の顔。
唇が尖って、これは拗ねている時のものなんだろうか。
しかし不服を表した表情は、私の心外さも煽っていた。

 「さっきも言ってましたよね、鈍感って。私なにか気付けてないことありますか?」

 「ある」

 「なんですか?」

聞き捨てならない。
自分で言うのもなんだが、勘が鈍いわけでもなく、むしろトラブルなどの回避に関するそれには幾分かの自信だってある。
だから、義理の妹とも母ともトラブルにならずにやってられているのだ。
なので、鈍感発言に関してはどこがどうなのかきっちり説明してもらいたい。

 「それは自分で気付けよ。一緒にいたら分かるはずだから」

 「先輩と?」

 「そ、嫌?」

近い距離で顔を覗き込まれて、先輩と一緒にいる時間を想像して、思い出してみる。
今この瞬間の気持ちも。
近い距離もなにもかも。
でもどう考えても、

 「嫌、ではないです」

落ち着く自分しかいなかった。
壱矢はもう一度、さっきより緩く私に額を合わせ、すりっと撫でた。

 「早く気付けることを願ってるよ」

 「教えてくれたら早いんですよ?」

 「まだ教えない」

 「まだ?」

 「そう、まだ。時期がきたら教えてやるよ」

それは答え合わせということなんだろう。
壱矢と一緒にいれば分かるというのが何を示しているのか皆目見当もつかないけれど、それを探りたい意思は揺らぎなく確かにある。
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