好きとか愛とか
私を好きにしようとしたあの男の目、荒い呼吸を吐き出す口、カッターを持った手、ボタンを解いた指、何もかも鮮明に覚えている。
忘れたくても忘れられず、忘れたと思っていたのに結局はいつまでも私の脳裏に住み着いて離れないあいつは、今目の前にいる男と同一人物だ。
「ありがとう、お疲れさま。よく頑張ったね」
マジックミラーが真っ黒になり、向こう側と遮断される。
終わったのかと佐竹さんを見ると、優しく微笑んで頷いてくれた。
その瞬間一気に力が抜け、脚に力が入らなくなってしまった私はその場に崩れ落ちてしまった。
佐竹さんが慌てて膝をつき、「大丈夫か?」と問いかける。
さっきのさっきで、私に触れようとしないのはさすがだと思った。
「あの、すみません、今すぐ、ここへ、先輩…を、彼を呼んでもらえませんか?お願いします」
息がしにくい、立ち上がれない。
胃も痛すぎる。
床についた両手は床さえ触れないレベルで震えていた。
誰かの手を借りるなら、誰かにすがって弱さを見せるなら、私には壱矢の他に誰もいなかった。
佐竹さんが、部屋にいた誰かに壱矢を呼びに行かせたのが気配で分かる。
ドアが開き、廊下をかける音が聞こえた。
廊下は走るな、は、緊急時には適用されないんだななどと、こんな時なのに思ってみる。
ほどなくして足音が二倍になって返ってくると、ドアが勢いよく開いて真っ先に壱矢の存在が入ってきた。
壱矢の姿を視界のはしに認めるより早く、彼に抱き締められた。
「壱…」
そして感じる壱矢の声。
忘れたくても忘れられず、忘れたと思っていたのに結局はいつまでも私の脳裏に住み着いて離れないあいつは、今目の前にいる男と同一人物だ。
「ありがとう、お疲れさま。よく頑張ったね」
マジックミラーが真っ黒になり、向こう側と遮断される。
終わったのかと佐竹さんを見ると、優しく微笑んで頷いてくれた。
その瞬間一気に力が抜け、脚に力が入らなくなってしまった私はその場に崩れ落ちてしまった。
佐竹さんが慌てて膝をつき、「大丈夫か?」と問いかける。
さっきのさっきで、私に触れようとしないのはさすがだと思った。
「あの、すみません、今すぐ、ここへ、先輩…を、彼を呼んでもらえませんか?お願いします」
息がしにくい、立ち上がれない。
胃も痛すぎる。
床についた両手は床さえ触れないレベルで震えていた。
誰かの手を借りるなら、誰かにすがって弱さを見せるなら、私には壱矢の他に誰もいなかった。
佐竹さんが、部屋にいた誰かに壱矢を呼びに行かせたのが気配で分かる。
ドアが開き、廊下をかける音が聞こえた。
廊下は走るな、は、緊急時には適用されないんだななどと、こんな時なのに思ってみる。
ほどなくして足音が二倍になって返ってくると、ドアが勢いよく開いて真っ先に壱矢の存在が入ってきた。
壱矢の姿を視界のはしに認めるより早く、彼に抱き締められた。
「壱…」
そして感じる壱矢の声。