好きとか愛とか
 「いえ、あの、恐ろしく目が腫れているので見られたくありません」

窓の外を向いていたのは頭が重いからだけでなく、人にお見せできない目の腫れを隠すためでもあった。

 「そんなひどくねぇよ。泣いてる壱もいい」

 「性癖というやつですか?」

以前壱矢が言っていた、そそられるというやつなのか。
趣味趣向というより、男の場合は性癖が絡んでくるとちょっと調べたネット先生が言っていたのを思い出す。
真ん丸に見開かれた目がすぅっと細められた。

 「そういう直球、君はどこで覚えてくるんだろうね」

どうやら当たっていたらしい。
さすがはネット先生だ。

 「次で降りる」

ぶっきらぼうに言ってボタンを押した壱矢の顔は、心なし赤くなっていた。
それからすぐにバスが止まり、私の手を引く壱矢と揃って降車した。
見慣れたバス停、駅、ここまで来ると地元という感じがしてひと息つける。
終わったのだな、と、喜ぶ日もそう遠くない気がして、気分は早くも上向きになりつつあった。
のだが、急激に感じた胃の痛みで、バランスを崩してしまった私は、壱矢の肩に思い切りぶつかってしまった。

 「っと、おい、壱?どうした?」

膝落ちする寸前で抱えあげ、体を支えつつ道の脇まで移動する。

 「すみません、ちょっと、胃が…」

緊張やら恐怖やら、そんな負の感覚と長時間一緒にいた上に、一気に解き放たれたから過度なストレスがかかったのだろう。
普段から奥津家での生活でもダメージを受けていて、最近キリキリ痛むことが多くなってきていた。
限界突破、というやつだ。
じっとしていたら落ち着くはずだけれど、ずっと座ったままというのも辛い。

 「結構痛む?家まで…、は、無理そうだな。俺にしっかりつかまってろ?」

 「え…」

腰に腕が回り、恋人がするみたいに密着して立ち上がる。

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