好きとか愛とか
体重を壱矢に預けさせられれば、周りから見たら付き合ってると変わらない。
ただ、私の顔色とよれ具合で体調不良がばれるだろうけれど。

 「ごめん、ちょっと歩く。で、嫌な思いもさせるから先に謝っとく」

 「どういう…ことですか?」

 「着いたら分かる」

そう言われて、目的地が謎なまま壱矢に連れられ、たどり着いた先は。
まさかの。

 「ラブホですね」

壱矢に全て任せて部屋に入り、辺りを見回して認識したこの場所は、まさにラブホテルだった。
大きなベッド、テレビ、ガラス張りで部屋から中が見えるシャワールーム、そして女の子のテンションが上がってしまうフリフリの内装。
情報としてしか知らなかった私でさえ、一目見てここがどこだか分かった。

「ラブホですよ」と返した壱矢が部屋の奥にあるベッドへ直行する。
休むために入ったことは分かっていても、恋人たちがここで何をするか知らないわけではない私は、嫌でも緊張してしまう。

 「こういうところ、来たことあるんですか?」

 「ねぇよ。たまたま看板が見えたから直行しただけ。だから嫌な思いさせるって言ったろ?」

私をベッドへ寝かせた壱矢が、近くにあったソファに座って溜め息を吐く。
嫌な思いはしていない。
ただ気になるだけだ。

 「誰かと来た事があるのかと思いました」

手際よく部屋を押さえ、ここへ入る段取りにも手間取っている様子がなかった。
料金はどうなのかとか、支払いはどのタイミングでとか、気にするふうじゃなかったから、もしかしてと思ったのだ。

 「こねぇよ。相手いないのに」

 「今は私が相手ですね。彼女役ですし」

けれど彼女役。
そういうことをする関係ではない。
安心半分、それとはちがうモヤモヤ半分。
あー、嫌だ。
またこれだ。
どうして壱矢が他の女の子と一緒にいるところを想像すると、こんな気持ちになるんだろう。
自分で自分を傷めている気がして嫌気がさす。

 「お前さぁ…」

あきれた声で壱矢が呟き、途中でやめた。

 「なんですか?」

 「いや、いい。とりあえず横んなって休んでろ」

着ていたシャツを脱いで、その辺に放った。
オーバーサイズのTシャツから、たくましい腕が覗いて、その腕に何度も抱き締められたことを思い出す。

< 135 / 242 >

この作品をシェア

pagetop