好きとか愛とか
助けてもらってばかりだ、と。

 「治まりそう?」

 「はい。しばらくしたら大丈夫です。でもそれより先輩、びっくりです。このベッドすごくふわふわです」

ふわんふわんのたっぷたぷなベッドの上で体を揺すってみると、浮き上がりそうなくらいに軽快にスプリングが弾んでいる。
マシュマロよりももっと柔らかくて、もっと包み込んでくれる感じ。
こんなベッドで寝たらいい夢しか見れなそうだ。

 「先輩も来てください。すごいですよ。触ってみてください」

 「いいの?俺行って」

 「はいどうぞ」

 「触っていいの?」

 「どうぞ。どうせなら感じてください」

 「…なんだそれ、くそっ、しらねぇぞ、ったく」

ソファから立ち上がった壱矢がベッドまで来ると、ほんの数秒私を見下ろしてから横になった。
壱矢の重みを受けて、ベッドがゆっくり沈んで戻る。

 「ぅわ、ほんとだ、すげぇ」

心底驚いた壱矢が楽しそうに笑っているのを見て、こっちまで楽しくなってきた。
無意味に体をごろごろさせる姿は無邪気そのもので、家ではお目にかかれない壱矢である。

 「天井の模様がバロック様式って…」

怪訝な顔で呟いた壱矢は、無邪気さを完全に喪失させていた。
見上げた天井には、美術の本に載っていそうなミケランジェロやルーベンスを模した絵があって、それがシュールな装いを醸し出している。

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