好きとか愛とか
　｢先輩は離したいですか？｣

私を手放して気楽に過ごしたいかもしれない。
受験生なんだから、自分のことだけに専念したいはず。
壱矢の本心が知りたくて、彼の瞳のずっと奥を覗き込んでみる。
すると壱矢も同じ目線で合わせてきて、私の鼻の頭をちょんとつついた。

　｢すげー事訊いてくんのな、お前｣

苦笑混じりにそう言うと、また私を見つめる。

　｢すみません。適切な言葉が思い付かなくて｣

こんな会話他の誰ともしたことがないから、言い方が分からない。
誤解を招かないよう単刀直入に訊いたのだが、壱矢的にはずれていたらしい。

　｢いや、いいよ。そういうとこ大変よろしい｣

苦笑気味に口元を綻ばせて、頬を指先で刺激してくる。
猫にするみたいに。
頭を撫でる壱矢はいつも優しくて、笑いかける顔は常に穏やか。
ふと、頬の上で好きにじゃれていた壱矢の手がピタリと止まった。

　｢離したくないって言ったら、お前どう感じる？｣

浮かべた表情は柔らかいのに、眼光は鋭く逃げることは許されない強さを放っていた。

　｢笑いませんか？｣

言っても、いいんだろうか。
自分の率直な気持ちを。

　｢笑わねぇよ｣

本心を言ってしまえば、もしかしたら引いてしまうかもしれない。
なんでも買ってあげると言って結局買ってもらえなかったときみたいに、期待が潰されるんじゃないだろうか。
母が私にするように、あっさり手のひら返しで…。
でも、壱矢は違う。

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