好きとか愛とか
たまっていたものが溢れ出る。
私にはもう、それに流されるしか手段がなかった。

 「うるさいっ!そっちこそなに!?これは私のだって知ってるよねっ?浴衣は譲ったじゃないっ、これは私のものでしょっ?」

母親に、うるさいなんて言ったのはいつぶりだろう。
少なくとも、前回口にした際酷く悲しそうな顔をしたのが衝撃的で、それ以来は言葉にしていない。
癇癪なんかであんな悲しい顔させるのはよくないと、子供ながらに強く心に突き刺さった。
だが、再びぶつけられた言葉に母はあの時のような顔は浮かべていなかった。
あるのは、私への疑心感と残念さ。

 「なに子供みたいなこと言ってるの?この浴衣にはそのかんざしがよく合うんだから貸してあげなさい。あなたのは今風だから合わないでしょ?」

 「あんな浴衣私のじゃない!愛羅が着ないから仕方なく回ってきたものじゃない!私が欲しくて買ってもらったんじゃない!母さんっ、もうそんなことも分かんないのっ?子供はどっちよっ!全部っ、全部譲ってきたでしょっ!?なにもかも譲ったじゃない!どれだけ私から奪うのよ!!私が可愛げない役を演じてあげたから今のあんたがいんのよ!!今まで母さんの顔を立ててきたからなにもかもあんたのものになってきたのよ!!あんた達の親子ごっこのせいでっ、私がどれだけ失ったかなにも知らないくせに!いいかげんにしてよ!!」

一度始まった癇癪は、何年分も積み重なっていて、本来の論点さえ分からなくなるほどだった。
思い付く限りの不満をぶつけてしまった私は、誰がどう見てもヒステリックだ。
泣きこそはしないけれど、興奮で我を忘れてしまった私は自分の言った言葉さえ頭の中から消えていた。
きっと酷く聞き苦しい言葉を並べ立てたのだろう、罪悪感だけが根強く残っている。
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