好きとか愛とか
歩きとなったスピードで鈍くなったのがまずかったのか、学校へ続く河川敷の入り口で壱矢が待ち構えていた。
周りに人はいない。
聞こえるのはヒグラシの声。
壱矢だけ。
壱矢だけを夕日が照らして、長い影を作っている。

 「見つけた」

距離はほとんど無く、来た方向へダッシュしても逃げきれる自信はない。
無意識に後ずさった足が、大きな石を踏んでガクンと砕ける。
尻餅をついてしまう寸前で姿勢を建て直し、よろめいた体をしゃがむことで支えた。

 「壱っ」

慌ててこちらへ駆けよった壱矢に、私は手を前へ付き出して拒絶のバリアを張った。

 「やだ、来ないでっ、あっちいって、こっち来ないでっ」

しゃがみこんだまま叫ぶ。

 「こんな自分見られたくないんですっ」

一人で暴れて、感情をぶつけて、家まで飛び出したのにあっさり見つかってしまった自分が恥ずかしい。
浅はか過ぎて嫌になる。
行き先を告げてもいないのに、あっさり私を見つけてしまった壱矢に比べたら、愚かさが際立って見えた。

 「キレて当然だから。あんなの」

言いながら歩いてくる。
立ち上がれない私はまた後ろへ下がる。
激しい怒りの感情は落ち着きを取り戻しているが、それ以外の名前のつけようがない負の感情に飲まれた私が今どんな顔をしているか分からない。
そんな自分、絶対壱矢には見られたくなかった。
< 178 / 242 >

この作品をシェア

pagetop