好きとか愛とか
長身なのに、小動物のようでなかなか可愛らしい人だ。
こんな提案をして、うまいこと遊ばれたらどうしようと後悔しそうではあったけれど、この人ならそんな心配もなさそうである。
それに、壱矢がそういうだらしない人と交遊関係を持つようにも思えない。
この人は多分、いい人、なんだろう。
多分本人が言うように目立たないタイプの人。
だから、こんな提案が寄越されていっそう私に不信感を募らせているのかもしれない。
おもしろがられている、と。

 「それは聞いていませんので知りません。彼女が直接先輩に伝えるべきことですし、先輩も彼女から直に訊くべきことです」

知らないというのも事実だが、もし知っていたとしても私が口にするべきことではない。
それを知りたいと思うなら、それは先輩にもチャンスなのだ、きっと。
そのために接点、きっかけを作ったのだから。
荻野先輩はしばらく黙って考えたあと、一つ頷いて優しい笑みを浮かべた。

 「分かった。会ってみるよ」

恥ずかしくてはにかんだような、その笑顔は私でさえ胸が暖かくなるようで。
安倍さんにも向けて欲しいと、素直にそう思えた。

 「ありがとうございます。では昼食後に特進棟へ来ていただけますか?2階美術室のとなりに空き教室がありますので、そこで落ち合ってください」

 「分かった」

 「ありがとうございます。では、失礼します」

任務完了。

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