好きとか愛とか
髪が後ろへ流れ、露になった額の形が壱矢にそっくりだ。
目鼻立ちがはっきりした端正な顔つきも、壱矢とよく似ている。

 「お前たち、もう…その…」

一度訊きかけて止まる。
内容は想像するに難くない。
ただあまりにストレートで憚られたんだろう。

 「間違いはおかしてないんだな?」

言い方を変えても確かめたいことはひとつ。
私と壱矢の────

 「ないよ。間違いはない」

 「そうか、ならよかった」

壱矢の答えにやっと明るい光でも見えたのか、二人とも私たちが帰宅したときより安堵したのが見てとれる。
何をもって間違いなのか知らないけど、尋ねられたことが壱矢と肌を重ねたことを指してなのなら、間違いなんておかしてない。

 「でも、じいちゃんにはなるかもしれない」

にっこり笑顔で、安堵した二人を奈落の底へ叩き落とした。
二人の血の気が、爪先まで下がったのが分かる。
私が襲われた話しより同棲話しより、今日一番の驚き発言であることに違いない。

 「壱矢お前っ!!」

 「そういう愛し方をした」

声を荒げて立ち上がる恭吾さんに、なにも動じること無く真正面から答えた。
いつ殴りかかるか知れない恭吾さんから守るため、壱矢にしがみつく。

 「壱をそういうふうに愛した」

嘘、
そんな抱かれ方されてない。
壱矢はずっと紳士だった。
私にも壱矢にも、なにも不安要素は残していない。

 「壱矢っ、なんてことっ」

 「壱矢君、ほんと?壱を、あなた本当に…っ?」

母の声はもう悲鳴に近かった。
いい大人が、半泣き半狂乱である。
壱矢の腕を掴んだ母が嘘だと言ってくれ、そんな目で見つめていた。
一縷の望みといったところだ。

 「はい。壱がたまらなくほしかったので」

壱矢のストレートな気持ちが、こんな場面だからこそダイレクトに響く。
母をまっすぐ見つめて、なんの躊躇もなく気持ちを曝す。
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