好きとか愛とか
 「なっ…っ、欲しかったって、壱矢君、こ、この子は、この子はまだ十七歳よ!?子供なのよ!?そんなっ…どうしてそんな」

 「いつも壱を大人扱いしてますよね?喜美子さんは。自分の都合で大人にしたり子供にしたり、ズルいです」

言い返す言葉がない母が、唇を感で詰まった。
痛いところをつかれたのは一目瞭然だ。
言われて思い当たることなら、山ほどあるのだから。
母の思考回路なら、壱矢にはもうなにも言えることなど無い。
となれば、吐き出しきれない怒りの向かう先は、当然私だ。
髪を振り乱し、とんだアバズレだとでも言わんばかりに私を睨み付けてきた。

 「あなたはなんてことしたのっ、この子はっ!!そんな簡単に許して!なに考えてたのっ!どういうことか分からないわけじゃないでしょう!!がっかりさせないで!!」

腕を振り上げ、私に殴りかかろうとする母を恭吾さんが押さえ、壱矢が私を自分の背中へ隠した。
がっかりさせないで─────
これが本音、ということ。
どれだけ頑張っても、どんなに努力をしても、私はがっかりさせる要因だったのだ。
母の金切り声が、耳に響いて離れない。

 「落ち着け、喜美子っ、壱ちゃんを責めるなっ、すまない、壱矢が、壱矢が悪いっ、すまない…っ」

取り押さえる恭吾さんを振りきる余力などなく、体をよじるのが精一杯。
恭吾さんに抱き締められたとき、とうとう声に出して泣き始めてしまった。

 「申し訳ない、喜美子…」

泣き崩れた母のそばで、土下座同然に頭を下げた恭吾さんが、とても小さく見えた。
この二人は、なんの何に対してこんなに絶望してるんだろう。
私と壱矢の人生が絶たれたかのように、もう未来さえないみたいに…。
大罪でも犯したみたいに…。
< 223 / 242 >

この作品をシェア

pagetop