好きとか愛とか
目の前の二人を見ても、ドラマや映画を観ている気にしかならなかった。

 「二人を一緒になんて、できないわ。受け入れられない。私もこれまでの事を改めていくと約束するから、お願い、この家にいてちょうだい」

恭吾さんに寄りかかりながら、私を必死に食い止める母親の姿はもう、惨め。
その手には乗らない。
もう母親の思う通りには動けないのだ。

 「自分の要求ばっかり…、もう勘弁してよ」

 「壱…お願いよ…壱…」

すすり泣く母の声に嫌気がさし、顔を背けて壱矢の胸に埋めた。

 「無理。こんな話をしてしまったあとで普通でいられるわけ無い」

 「大丈夫よ。壱はなにも気にすること無いんだから」

 「私じゃない。母さんのこと」

 「え?」

この人は本当に、物事の本質を見抜けない哀れな人なんだ。
誰が私の身の振り方を心配したか。

 「母さん、不自然にならずに改善するなんてできる?母さんは器用じゃないから、私を腫れ物みたいに扱って、今度は私を立てるような行動するでしょ?あからさまなくらい。愛羅はどうするの?今までぬるま湯に浸かってたのよ?思い通りになら無くなったら、嫌われるんじゃない?耐えられるの?私は母さんの行動全てに裏があるんじゃないかってずっと気にしなきゃならない。疲れた母さんがいつまた愛羅を立てて私を引き立て役にするのか、気にしなきゃならない、そんな怖さはもう嫌なの。母さんの今までの態度は、それだけ信頼に値しないということ。もう戻れないんだよ、私を引き立て役にする前には」

どうやっても戻ることはできない。
私が耐えてきた過去は誰に何をされても消えることはなく、ずっとついて回る。
この母親が器用に立ち振る舞えるなら、こんなことにはなっていなかっただろう。
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