好きとか愛とか
思考はおぼろげで、機能してるのかどうかも判断つかない。
頭の中はふらふらだ。

 「出ていくってどういうこと!?お兄ちゃんといっちゃん、この家出ていくの!?」

リビングのドアが勢いよく開き、金切り声をあげた愛羅が慌ただしく入ってきた。
その音と声に驚いた四人が、揃って体を大きく弾ませた。
ぼんやり酸欠状態の頭が、また活動を再開させる。

 「愛羅っ、お前、聞いてたのかっ!?」

いつからそこにいたのかは分からない。
だが、愛羅が聞いて刺激を受けない内容ではなかったことは確かなため、恭吾さんの動揺もひとしおだ。

 「どういうこと?二人が付き合ってるって、どうして?兄妹なんでしょ!?」

真っ先に詰め寄ってきたのは私。
腕を掴まれ、壱やから強引に引き離そうとする。
伸ばした爪の先端が、皮膚にめりめり食い込んでいく。

 「やだっ、離れてよっ、いっちゃん!!」

 「止めろ愛羅!」

壱矢が割って入り、食い込んだ爪が剥がれないよう、皮膚が痛まないよう愛羅の手をほどいていく。
愛羅は私をきつく睨み付け、拳を震わせている。

 「酷いよいっちゃん!お姉ちゃんだと思ってたのにっ!影でこそこそお兄ちゃんとっ、やらしいっ、不潔だよいっちゃん!!お兄ちゃんは絶対いっちゃんになんかにあげないから!!」

壱矢にしがみついた反動で私が外へ放り出される形となるが、寸でのところで抱き止めてくれた。
ものも人も、ねだれば自分が手に入れられると思っているのが怖い。
いやらしいだの不潔だの、いったい何を基準にしてそんなことをほざくのだろうか。

 「よせって言ってるだろ」

腕に絡み付く愛羅を邪険に振り払う。

 「やだっ、やだやだっ、お兄ちゃんどこにもいかないで!いっちゃんお兄ちゃん取らないで!愛羅からなにも取らないで!どうしてそんなことするの!?いっちゃん愛羅の言うことなんでもきいてくれるでしょっ??返してっ、お兄ちゃん返して!!」

壱矢に追いすがり、タックルするようにして腰にしがみついた。
私を睨み付ける目には、敵意で滲んでいた。
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