好きとか愛とか
厳かに執り行われた卒業式は粛々と進行し、進学校ならではのそっけなさで終了してしまった。
卒業生のほとんどの顔を覚えてもいない私は、おもしろいくらいになんの感情もわかず、暖房の行き届かない三月の冷ややかな空気の中ここにはいない壱矢の姿を思い浮かべながら卒業生を見送ったのだった。

 「じゃあ安倍さん。荻野先輩と楽しんできてね」

全ての日程が終わり、解放された私と安倍さんは教室の前で手を振り合う。
金曜の今日、この後は珍しく授業もないため、安倍さんと荻野先輩は二人で卒業旅行の温泉へ行くらしい。
おまけに次の月曜は開校記念日なので、二泊三日プラスαだ。
何だかんだでうまく行って、今でも仲良くしている二人を見ると、あのときの私の暴挙も役立ったのだなぁと感無量である。

 「ありがとう。壱ちゃんも奥津先輩と卒業祝だもんね」

頬を染めて、そわっとした安倍さんが私と壱矢に話題をすり替えた。
心配しなくても、安倍さんが想像していることなんて掘り下げて訊ねたりはしないのに。

 「私たちはどこも行かないから、お土産もないけど…」

 「そんなのいいのいいのっ、二人のラブラブ話聞かせてねっ」

 「…らぶ、らぶ」

言われて、安倍さんが想像していたと想定されるらぶらぶが頭に上って、瞬時に顔が茹だるのが分かった。

 「やっ、ちょっ、やだっ、そんな真っ赤にしないでよ壱ちゃぁんっ、そういう意味じゃないからっ、ねっ?やだっ、もぅぅっ」

慌てて安倍さんが否定するも、頭に上った事柄が二人とも同じだったため、もうどうにも収集できなかった。
らぶらぶと言ったらそれしかないのか。
いや、まぁ、実際そればっかりだったりもしないでもないけれど、だからといってすぐ頭に上るほど呆けた自分が恥ずかしい。
でも、それはそれで悪くなかった。
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