好きとか愛とか
たくさんの光が入っては来ているが、本が傷まないよう光の射す区画から本棚までは遠い。
古書店みたいで安らげるのだ。
肩甲骨の上まで伸びた髪を一纏めにして結わえた私は、まずは棚の埃払いから始めるべく、締め切った窓を開け放った。

手順通りに埃を払い、軽く窓を吹いて床に掃除機をかける。
それくらいやれば、普段から綺麗に使われている図書館は完璧に掃除されたものと大差ない仕上がりになる。
図書館の仕事で、一番手間がかかるのは、本棚の整理なのだ。
大体もとの位置に返してはくれるのだが、たまにごっちゃになっているときがある。
それらを一冊ずつ片付け、さらには返却ワゴンにのせられた本も元の場所へ戻さなければならない。
なかなか時間がかかってしまうが、数をこなせば慣れてくる。

バラバラになっていた本を索引順に並べていると、入り口からドアの開く音がして、誰かが入ってきた。
今日が整備の日だとうっかり忘れて入ってくる生徒は少なくない。
この人もそうなのだろう。

 「あれ…そっか今日図書整備の日か」

整備の日であることを伝えるべく棚から顔を覗かせると同時に見えたのは、本を数冊持った壱矢だった。
他の生徒と遭遇したことはあったけれど、壱矢とは初めてだったため言葉に詰まってしまった。

 「今日は壱が当番だったんだな」

私を認めた壱矢が軽く手を上げて微笑む。

 「はい。返却しておきましょうか?」

 「んー、実は返却だけじゃなくて借りたかったんだけど、無理だよな?」

 「無理です」

返却は可能だが、新たに貸し出すことは出来ない決まりになっている。

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