好きとか愛とか
 「じゃあちょっと本読ませてくんない?どうしても読みたい本があって、それ探したいんだ。壱が終わるまででいいから。頼む」

 「はい、それくらいなら大丈夫だと思います」

まぁ別に、ここで本を読むくらいならどうということもないだろう。
なんだかとても読みたそうにしているし無下にも断れない。
一緒に住んでいるというのが意識とは別のところで、引っ掛かっている。
それに読みたい本がすくそこにあるのに我慢しなければならないモヤモヤは、私にもよく分かるから。

 「わりぃな」

そう言ってスリッパに履き替えた壱矢が同じフロアへ入ってきた。
読書するためで会話なんて必要ないと分かっていても、この男と二人はどうも居心地が悪い。

 「先生が来て先輩を上げたのが知られると困るので、ロフトでお願いできますか?」

それもあるが、出来るならあまり近くにいてもらいたくなかった。
「オッケ」と了承した壱矢がお目当ての本を探して奥へと入っていく。
困った、そっちはまだ作業の残る場所だ。
しかしワゴンはそこにあり、作業していたのは明らかなので別のことをして不自然に避けることも出来ない。
渋々だが私も同じ場所へ戻り、返却本を棚へ戻していく。
一冊一冊確認して本を戻す音と、本を探す音だけが館内に広がる。

チラリと見えた壱矢の本の扱いが優しくて、不覚にもドキリとしてしまった。
壊れ物を扱うように、両手で優しく本を包んでいる。
ページをめくる時も傷めないよう慎重に扱っている指先は、繊細なタッチで触れていた。

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