好きとか愛とか
自分から声をかけなければならないことだけではなく、気持ちよく眠っている人を起こす行動に罪悪が残ることがネックとなって、私を躊躇わせる。
とっととここを出てコンビニへ行きたい気持ちが、もう逃げ場がないときに似た謎の焦りを引き起こす。
けれど、やはり起こすのは忍びなくて。
いくら爆睡していても朝まで眠りこけるなんてことはないだろうし、お腹がすいたら起きると踏んでそのまま寝かせておくことにした。

壱矢だって仮りにも受験生だ。
大学受験するかどうかなんて知らないけれど、もしするなら勉強続きで疲れているのかもしれない。
ロフトの階段を降りた私はカウンターへ行き、観音開きの棚から大きめの膝掛けを出してまた壱矢のところへ戻った。
5月なので寒くはないけれど、眠っていると体温が下がってしまう。
受験生に風邪を引かせることは出来ない。
壱矢を起こさないよう膝掛けを身体にかけた。

う、
やっぱり小さすぎる。

想像通り、壱矢の身体の半分も埋まらない膝掛けは、腰の辺りを多少カバーする程度にしか役に立っていなかった。
まぁ、ないよりましだろう。
壱矢が起きるまでの間、読書でもして時間を潰すことにした。
新たに探すのもなんだし、壱矢の読んでいた本を返すついでに読むことにする。

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