好きとか愛とか
出来ないし、約束したら裏切れなくなってしまう。
嘘をついた時点で裏切り行為に等しいけれど、了承してしまうとその人自体を拘束することになるのでそんなことはしたくない。

 「ま…待たないで、ください」

 「頑固かよ」

頬を軽くつねられた。
痛くない力で、ふにっと頬が歪む。
そうしてしばらく私を見つめた後、壱矢は図書館の出口へ歩いていった。

 「じゃあ」

 「はい…」

振り返り様に手を振られて、とっさに振り返すこともせず頭だけを下げた。
ドアが開き、閉まる音がする。
それを聞いて、緊張の糸が一気に切れた私はその場にうなだれるように座り込んだ。

 「危なかった…」

今になって心臓がばくばくし始める。
胸に手を当てて、息苦しくなった呼吸を整えた。
それからのろのろ立ち上がり、照明を落とす。
そのときに見えた柱時計は午後七時過ぎを差していた。
ぎょっとなる。
思いの外時間がたっていて、軽く見積もっても一時間は眠りこけていた自分に少々引いてしまった。
見回りの教師が来る前でよかった。
もし来ていたら面倒なことになっていたかもしれない。
もしかしたら、俺が送りますのでとか言って壱矢がそのまま残っていたことだってあり得る。

 「ダメダメ、絶対」

図書館の鍵を持ち、外に出た私は急いで鍵を掛けて校舎へ向かう。

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