好きとか愛とか
まだ灯りがついていて、教師たちが残っているのがうかがえた。
職員室のすぐそば、鍵が保管されている小部屋にこっそり入って鍵を返却し、音を立てないようにまたこっそりその場を離れた。
その足で学校から一番近いコンビニへ向かい、サンドウィッチと紅茶、後は歯磨きセットを買ってまた学校へ戻る。
教師達に見つからないように注意して進学棟へ戻った私は、辺りを確認しつつゆっくりドアを開いた。

中は非常灯だけしか灯りがなく、見る人からするとちょっとしたホラーだろう。
けれどそんなに怖いこともなく、むしろアウェイなあの家から解放された喜びの方が大きくて、そちらが断然勝っていた。
暗いからか私一人しかいないからか、少しの物音もよく響くような気がする。
上履きを脱ぎ、ゆっくり階段を上ると、自分の教室へ滑る形でスライディングした。
小学校の頃、靴下で廊下をスケートした記憶がよみがえる。

窓際の席に座り、外を眺めると、教師たちがぞろぞろ出てくるのが見えて慌ててしゃがみこんだ。
仕事を終えて駐車場へ向かうもの、徒歩で自宅を目指すもの、それぞれが別れの挨拶を交わしている。
彼らは私がここにいることを知らない。
明日の朝普通に登校してきたことを疑いもしないなんて、なんだかスパイ気分で楽しかった。

完全に私一人だ。
とっくに日は落ち、空には星と月が瞬いている。
いつもは燦々と太陽の光が降り注いでくる教室の中を、今は月と星の光が照らし出している。
幻想的でうっとりしてしまう。

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